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横浜地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決

横浜市港北区南綱島一四二番地

原告

日本コイル株式会社

右代表者代表取締役

田口昌曹

右訴訟代理人弁護士

田中泰岩

同市神奈川区七島町一一七番地

被告

神奈川税務署長

山田冨士雄

右指定代理人検事

岩佐善己

検事 島村芳見

法務事務官 西山国顕

同横浜地方法務局訟務課長

鴫原久男

法務事務官 白井文彦

大蔵事務官 藤原博成

右当事者間の昭和三九年(行ウ)第二号法人税額等の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は昭和四一年一二月一五日終結した口頭弁論に基づき次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

原告訴訟代理人は、「一、被告が昭和三八年二月一五日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書をもつて原告に通知した、原告の左記事業年度の所得金額及び法人税額を左記のとおり更正決定した処分並びに原告に対し重加算税を賦課決定した処分を取消す。

(一)  事業年度 自昭和三二年一月一日至同年一二月三一日

所得金額 五、六三一、九一七円

法人税額 二、二〇二、七六〇円

重加算税 三〇六、〇〇〇円

(二)  事業年度 自昭和三三年一月一日至同年一二月三一日

所得金額 五、九四六、八一七円

法人税額 二、一五九、七八〇円

重加算税 七三七、〇〇〇円

(三)  事業年度 自昭和三四年一月一日至同年一二月三一日

所得金額 六、七三二、五七一円

法人税額 二、四五八、三五〇円

重加算税 四五九、〇〇〇円

(四)  事業年度 自昭和三五年一月一日至同年一二月三一日

所得金額 七、九七九、五五八円

法人税額 二、九三二、二一〇円

重加算税 四九一、五〇〇円

二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、主張

原告訴訟代理人は請求原因として

一、原告は昭和三一年一二月二一日東京都千代田区神田神保町一丁目三番地―所轄税務署は神田税務署―を本店所在地として成立した株式会社であるが、昭和三六年八月一日~登記は同年八月一〇日―本店を神奈川県横浜市港北区南綱島町―登記簿上は南綱島―一四二番地―所轄税務署は神奈川税務署―に移転した。

二、原告は左記事業年度分の貸借対照表、財産目録及び損益計算書をそれぞれ適法に作成し、その計算に基づいてそれぞれの申告期限内に神田税務署長に対し次のとおり法人税法所定の所得金額及び法人税額の確定申告書を提出した。

(一)  事業年度 自昭和三二年一月一日至同年一二月三一日(以下事実理由欄を通じて昭和三二年度という)

所得金額 二、八六〇、四七八円

法人税額 一、〇九四、一六〇円

(二)  事業年度 自昭和三三年一月一日至同年一二月三一日(以下事実理由欄を通じて昭和三三年度という)

所得金額 欠損金 二五六、〇三七円

法人税額 〇円

(三)  事業年度 自昭和三四年一月一日至同年一二月三一日(以下事実理由欄を通じて昭和三四年度という)

所得金額 一、五七四、五九〇円

法人税額 四三五、一〇〇円

(四)  事業年度 自昭和三五年一月一日至同年一二月三一日(以下事実理由欄を通じて昭和三五年度という)

所得金額 三、三二八、二五八円

法人税額 一、一六四、七一〇円

三、神田税務署長は昭和三三年一二月一三日付原告宛法人税等の更正通知書をもつて、原告の昭和三二年度分確定申告につき左記のとおり所得金額及び法人税額の更正処分をし、過少申告加算税の賦課処分をした。

所得金額 三、七四三、五〇〇円

法人税額 一、四四七、四〇〇円

過少申告加算税額 一七、六五〇円

四、神田税務署長は昭和三二年ないし三四年度分については昭和三五年六月二九日付、昭和三五年度分については昭和三六年六月三〇日付の原告宛法人税額等の更正決定通知書をもつて、原告の前第二項記載の確定申告につき、左記のとおり所得金額及び法人税額の更正―昭和三二年度については再更正―処分をし過少申告加算税及び重加算税の賦課処分をした。

(一)  事業年度 昭和三二年度

所得金額 四、一〇一、〇〇〇円

法人税額 一、五九〇、四〇〇円

過少申告加算税額 一五〇円

重加算税額 六九、五〇〇円

(二)  事業年度 昭和三三年度

所得金額 二、〇六六、〇〇〇円

法人税額 六八五、〇八〇円

重加算税額 三四二、五〇〇円

(三)  事業年度 昭和三四年度

所得金額 四、三一五、〇〇〇円

法人税額 一、五三九、七〇〇円

重加算税額 五四六、〇〇〇円

(四)  事業年度 昭和三五年度

所得金額 五、三九二、三〇〇円

法人税額 一、九四九、〇七〇円

過少申告加算税額 三九、二〇〇円

五、原告は昭和三二年度分に関する前第三項記載の更正処分及び賦課処分、同第四項記載の再更正処分及び賦課処分、並びに昭和三三年ないし三五年度分に関する前第四項記載の更正処分及び賦課処分については、当時の法人税法所定の異議申立をしなかつたので右各処分は確定し、原告は確定したところに従つてそれぞれ納税した。

六、しかるに、前第一項記載のように原告が横浜市に本店を移転した後、所轄税務署である被告―但し当時の神奈川税務署長は成井実―は昭和三八年二月一五日付原告宛法人税額等の更正決定通知書及び加算税の賦課決定通知書をもつて、請求の趣旨第一項記載のような原告の昭和三二年ないし三五年度分の所得金額及び法人税額の再更正―昭和三二年度分については再々更正―処分(以下事実、理由欄を通じて本件更正処分という)、重加算税の賦課処分をした。

七、被告がなした前項記載の所得金額及び法人税額の再更正ないし再々更正処分並びに重加算税の賦課処分は、いずれも原告の所得金額でないものを所得金額と認定してなされたものであるから違法である。

すなわち、

原告の昭和三二年ないし三五年度における所得金額は、前第四項記載の神田税務署長により更正―昭和三二年度分については再更正―(以下事実、理由欄を通じて神田税務署長による更正という)された各所得金額以外には存在しないところ、被告は本件更正処分において、原告の右各年度における所得金額を左記金額宛増額認定している。

昭和三二年度分については 一、五三〇、八九七円

昭和三三年度分については 三、八八〇、七七〇円

昭和三四年度分については 二、四一七、五四四円

昭和三五年度分については 二、五八七、二一四円

そして原告の後記審査請求に対する東京国税局長の裁決――請求棄却――理由書によると、右増額はいずれも訴外古河電気工業株式会社(以下事実、理由欄を通じて古河電工という)と訴外親和電気株式会社――昭和三五年九月一日以前の商号は親和通信機株式会社――(以下事実、理由欄を通じて親和電気という)との電線端末加工請負取引による訴外親和電気の請負代金収入及びこれを預金した結果生じた普通預金利子を原告の当該年度の利益金に算入して所得金額を算定したためであるとのことである。

しかし、訴外古河電工と前記請負取引をしたのは、実質上訴外田口一男個人又は訴外親和電気であつて原告ではないのであり、被告は実質上訴外田口一男又は訴外親和電気の収入を原告の収入と誤認して本件更正処分をしたものである。

よつて、本件更正処分は税法の大原則たる実質課税の原則―法人税法七条の三―に違反し違法である。

八、原告は行政不服審査法及び国税通則法に基づき、昭和三八年三月一〇日被告に対し、再調査請求書を提出して本件更正処分及び賦課処分につき異議の申立をし、次いで同年五月九日被告に対し国税通則法所定の同意書を提出したので右異議の申立は同日をもつて東京国税局長に対する審査の請求とみなされることになつた。

ところが、東京国税局長は前同年一一月一八日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月一九日付通知書をもつて原告に通知し、右通知書は同月二一日原告に送達された。

九、よつて、原告は国税通則法及び行政事件訴訟法に基づき本件更正処分及び重加算税の賦課処分の取消を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、被告指定代理人は答弁及び主張として、

一、請求原因第一ないし六項の事実は認める。

二、同第七項の事実中、被告が本件更正処分において、原告主張のように原告の所得金額を増額変更したことは認める。

三、同第八項の事実は認める。

四、被告のなした本件更正処分の根拠は次のとおりである。

請求原因第四項記載の神田税務署長のした更正処分中、昭和三二年ないし三四年度分に関する更正処分において、同署長は訴外古河電工横浜電線製造所発注にかかる電線端末加工による請負代金収入が訴外親和電気に属し、右収入に関する従業員の賃金等工賃、社会保険料及び福利厚生費等の経費は同訴外会社の支出すべきものとし、これに基づいて、さきに原告が右経費を訴外親和電気に代つて立替払したとして原告の所得計算上損金に計上していたものを、本来原告の立替金債権としてその所得に加算されるものとして否認していたところ、その後における調査、関係人の申立に基づいて検討した結果、訴外古河電工と電線端末加工請負契約を結び同加工を実施したのは、訴外親和電気ではなく原告であり、原告には右請負契約に基づき昭和三二年二月より昭和三五年九月までの間に合計二一、六五一、一七五円の請負代金収入があり、かつこれが原告会社代表取締役田口一男名義で三菱銀行横浜駅前支店扱い普通預金に払い込まれ、同年一一月一日までに右田口一男によつて全額引き出されていることが新たに判明したため、被告はこの事実に基づいて、原告の所得内容について、右請負代金を原告の計上洩れ所得として加算し、かつ前記神田税務署長のなした昭和三二年ないし三四年度分に関する更正処分において否認されていた前記各工賃等の経費及び昭和三五年度につき訴外親和電気に対する工賃等立替金債権すなわち利益として原告により計上されていた分を、原告の負担すべき損金として認容することとし、もつて所得の実態に即応して本件更正処分をしたものである。

以下本件更正処分の内容を神田税務署長のした更正処分と対比し、変更した点とその根拠を明かにする。

(一)  昭和三二年度分

課税標準となる原告の所得金額について、神田税務署長による更正と本件更正との対比―差額

五、六三一、九一七円―四、一〇一、〇二〇円=一、五三〇、八九七円

(更正内訳)

加算分

売上金額計上洩 一、八七九、〇五一円

受取利息計上洩 一、〇三〇円

小計 一、八八〇、〇八一円

減算分

工賃中認容 三〇六、五一八円

福利厚生費認容 四二、六六六円

小計 三四九、一八四円

差引所得金額増加額 一、五三〇、八九七円

(内容)

(1) 売上金額計上洩

訴外古河電工との前記電線端末加工請負契約に基づき、昭和三二年二月以降同年一二月までの間に別紙「古河電気工業株式会社横浜電線製造所からの入金明細書(以下事実、理由欄を通じて別紙明細書という)」の「当月発生額」欄記載のように原告に生じた売上金収入―請負代金収入

(2) 受取利息計上洩

(1)の代金を別紙明細書「入金」欄記載のように三菱銀行横浜駅前支店扱い原告―原告会社代表取締役田口一男名義―の普通預金に入金したため昭和三二年中に発生した預金利息

(3) 工賃中認容

神田税務署長の更正処分において、訴外親和電気の従業員に対する賃金を原告が立替払していたものとして前記のように原告の損金処理が否認されていたのを、被告において原告の従業員に対する賃金と認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(4) 福利厚生費認容

右(3)と同様被告において原告の従業員に関するものと認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(二) 昭和三三年度分

原告の所得金額について、神田税務署長による更正と本件更正との対比―差額

五、九四六、八一一円―二、〇六六、〇四一円=三、八八〇、七七〇円

(更正内訳)

加算分

売上金額計上洩 七、一〇二、九四七円

受取利息計上洩 二、六〇一円

小計 七、一〇五、五四八円

減算分

工賃中認容 二、一八四、四四五円

社会保険料認容 一一二、二六三円

福利厚生費認容 八二、七六〇円

賃借料認容 六六一、六〇〇円

事業税認容 一八三、七一〇円

小計 三、二二四、七七八円

差引所得金額増加額 三、八八〇、七七〇円

(内容)

(1) 売上金額計上洩

(一)(1)と同様にして昭和三三年一月以降同年一二月までの間に別紙明細書「当月発生額」欄記載のように原告に生じた売上金収入―請負代金収入

(2) 受取利息計上洩

(1)の代金を(一)(2)と同様にして別紙明細書「入金」欄記載のように普通預金にしたため昭和三三年中に発生した預金利息

(3) 工賃中認容

(一)(3)と同様被告において原告の従業員に関するものと認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(4) 社会保険料認容

神田税務署長の更正処分において、訴外親和電気の従業員に関する社会保険料を原告が立替払したものとして前記のように原告の損金処理が否認されていたのを、被告において原告の従業員に関するものと認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(5) 福利厚生費認容

神田税務署長の更正処分において、訴外親和電気の従業員の定期代を原告が立替払したものとして原告の損金処理が否認されていたのを、被告において原告の従業員の定期代と認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(6) 賃借料認容

原告が訴外古河電工より、作業所として家屋及び付属設備を賃借していたため昭和三三年中に生じた賃借料

(7) 事業税認容

被告が更正した前記昭和三二年度分増額所得金額一、五三〇、八九七円に対する事業税を損金として認容したもの

(三) 昭和三四年度分

原告の所得金額について、神田税務署長による更正と本件更正との対比―差額

六、七三二、五七一円―四、三一五、〇二七円=二、四一七、五四四円

(更正内訳)

加算分

売上金額計上洩 六、五五五、四二九円

受取利息計上洩 三、五六二円

小計 六、五五八、九九一円

減算分

工賃中認容 二、七一六、八七五円

社会保険料認容 一四八、三二二円

福利厚生費認容 九五、六一〇円

賃借料認容 七二四、九五〇円

事業税認容 四五五、六九〇円

小計 四、一四一、四四七円

差引所得金額増加額 二、四一七、五四四円

(内容)

(1) 売上金額計上洩

(一)(1)と同様にして昭和三四年一月以降同年一二月までの間に別紙明細書「当月発生額」欄記載のように原告に生じた売上金収入―請負代金収入

(2) 受取利息計上洩

(1)の代金を(一)(2)と同様にして別紙明細書「入金」欄記載のように普通預金にしたため昭和三四年中に発生した預金利息

(3) 工賃中認容

(一)(3)と同様被告において原告の従業員に関するものと認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(4) 社会保険料認容

(二)(4)と同様被告において原告の従業員に関するものと認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(5) 福利厚生費認容

(二)(5)と同様被告において原告の従業員の定期代と認め、改めて原告の損金処理を認めたもの

(6) 賃借料認容

(二)(6)と同様にして昭和三四年中に生じた賃借料

(7) 事業税認容

被告が更正した前記昭和三三年度分増額所得金額三、八八〇、七七〇円に対する事業税を損金として認容したもの

(四) 昭和三五年度

原告の所得金額について、神田税務署長による更正と本件更正との対比―差額

七、九七九、五五八円―五、三九二、三四四円=二、五八七、二一四円

(更正内訳)

加算分

売上金額計上洩 六、一一三、七四八円

受取利息計上洩 八、〇六三円

小計 六、一二一、八一一円

減算分

賃借料認容 六一七、四七〇円

事業税認容 二九〇、一〇〇円

工賃中認容 二、六二七、〇二七円

小計 三、五三四、五九七円

差引所得金額増加額 二、五八七、二一四円

(内容)

(1) 売上金額計上洩

(一)(1)と同様にして昭和三五年一月以降同年九月までの間に別紙明細書「当月発生額」欄記載のように原告に生じた売上金収入―請負代金収入

(2) 受取利息計上洩

(1)の代金を(一)(2)と同様にして別紙明細書「入金」欄記載のように普通預金にしたため昭和三五年中に発生した預金利息

(3) 賃借料認容

(二)(6)と同様にして昭和三五年中に生じた賃借料

(4) 事業税認容

被告が更正した前記昭和三四年度分増額所得金額二、四一七、五四四円に対する事業税を損金として認容したもの

(5) 工賃中認容

(一)(3)と同じく訴外親和電気の従業員に対する賃金を原告が立替払したものとして申告処理されていたのを、被告において原告の従業員に関するものであつて、訴外親和電気に対する立替金債権でないと認め、原告の損金処理を認めたもの

五、原告は、原告の昭和三二年ないし三四年度の三事業年度にかかる神田税務署の昭和三五年五月の法人調査において、訴外古河電工との前記請負取引金額は訴外親和電気の所得であると主張し、同年五月三一日に至り、昭和二九年一二月以降休業のうえ昭和三一年一二月解散し清算中であつた訴外親和電気を、昭和三五年四月三〇日付をもつて遡つて復活させたうえ、前記三事業年度における同訴外会社の決算書を急遽作成させ、これに前記訴外古河電工との請負取引による請負代金等を同訴外会社の所得として計上させ、同訴外会社所轄の杉並税務署に対しその旨申告させたものであつて、その間の作為は明白であり、原告は自己に帰属する右請負代金を隠ぺいし訴外親和電気にこれが帰属するものと仮装せんとしたものである。

と述べ、原告訴訟代理人は被告の主張に対する答弁として、

一、被告の主張第四項の事実中、神田税務署長のした更正処分中、昭和三二年ないし三四年度分に関する更正処分において同署長は訴外古河電工横浜電線製造所発注にかかる電線端末加工による請負代金収入が訴外親和電気に属し、右収入に関する従業員の賃料等工賃、社会保険料及び福利厚生費等が同訴外会社の支出すべきものとし、これに基づいて、さきに原告が右経費を訴外親和電気に代つて立替払したとして原告の所得上計算損金に計上していたのを、本来原告の立替金債権としてその所得に加算されるものとして否認していたことは認めるが、訴外古河電工と電線端末加工請負契約を結び同加工を実施したのが原告であり、同契約に基づき原告に被告主張のような請負代金収入があつたこと、原告が被告主張のように右請負代金収入を普通預金にしその預金利息を取得したことは否認し、その余の事実はすべて知らない。

但し被告の主張するそれぞれの数字に基づく計算の結果が被告主張の数字となるとの計算関係については争わない。

二、訴外古河電工と電線端末加工請負契約を結んだのは、訴外田口一男個人又は訴外親和電気であり、右契約に基づく所得については、既に訴外田口一男において所轄の青梅税務署長に対し、後には訴外親和電気において所轄の杉並税務署長に対し申告納税済である。

と述べた。

第三、証拠

原告訴訟代理人は、甲第一ないし三二号証を提出し、証人金子力、同田口一男の各証言を援用し、乙第七号証の九、一〇の原本の存在及び成立を認め、同号証の一、乙第六、八ないし一一号証の成立及びその余の乙号各証の原本の存在及び成立は知らないと述べ、被告指定代理人は乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、二、同第五号証の一、二、同第六号証、同第七号証の一ないし一一、同第八ないし一一号証を提出し、証人田口一男、同金子力、同藤原博成の各証言を援用し、甲号各証の成立をすべて認めた。

理由

一、請求原因第一ないし六項及び同第八項の事実は当事者間に争いがない。

二、昭和三二年ないし三五年度における原告の各所得金額が少くとも、請求原因第四項記載の神田税務署長による更正どおり、

昭和三二年度 四、一〇一、〇〇〇円

(ただし税法上の一〇〇円未満の切捨をしない実際の所得金額は、四、一〇一、〇二〇円)

昭和三三年度 二、〇六六、〇〇〇円

(同実際の所得金額二、〇六六、〇四一円)

昭和三四年度 四、三一五、〇〇〇円

(同実際の所得金額四、三一五、〇二七円)

昭和三五年度 五、三九二、三〇〇円

(同実際の所得金額五、三九二、三四四円)

であることは原告の争わないところであるから、以下被告が左記のように右各所得金額を超えて原告に存在すると主張する各所得金額の有無について検討する。

昭和三二年度 一、五三〇、八九七円

昭和三三年度 三、八八〇、七七〇円

昭和三四年度 二、四一七、五四四円

昭和三五年度 二、五八七、二一四円

原本の存在成立につき当事者間に争いのない乙第七号証の九、一〇、証人田口一男の証言により原本が真正に成立したと認められる同第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、二、同第五号証の一、証人藤原博成の証言により真正に成立したと認められる同第六号証、同証言により原本が真正に成立したと認められる同第七号証の二ないし八、同号証の一一、証人金子力の証言により真正に成立したと認められる同第八、九号証、証人田口一男、同金子力、同藤原博成の各証言を総合すると次の事実が認められる。

「原告は昭和三二年訴外古河電工との間で、同会社横浜電線製造所発注にかかる電線端末等加工を請負う契約を締結し(その後一年毎に契約を更新し)、同年二月以降昭和三五年九月までの間に、右契約に基づき加工作業をした結果、別紙明細書「当月発生額欄」記載のとおり、

昭和三二年度 一、八七九、〇五一円

昭和三三年度 七、一〇二、九四七円

昭和三四年度 六、五五五、四二九円

昭和三五年度 六、一一三、七四八円

の請負代金収入が発生し、この代金収入につき、昭和三二年度分については、この中一、三五八、五四三円を別紙明細書「入金」欄記載のように、三菱銀行横浜駅前支店の同年四月二五日開設した原告の普通預金口座に入金し、昭和三三年ないし三五年度分については、この間原告は前記請負契約に基づく加工を行うための作業所として訴外古河電工横浜電線製造所内に同会社の家屋及び付属設備を一カ月六万円の賃借料を支払う約で賃借していたので、その賃借料債務と別紙明細書「賃借料相殺」欄記載のように相殺し、その差引清算額、すなわち昭和三三年度分は五、三五七、〇七一円、昭和三四年度分は六、四八九、五六三円、昭和三五年度分は六、四四一、九七八円を別紙明細書「入金」欄記載のように前記普通預金口座に入金したので、この結果、

昭和三二年中に 一、〇三〇円

昭和三三年中に 二、六〇一円

昭和三四年中に 三、五六二円

昭和三五年中に 八、〇六三円

の預金利息が生じた。」

原告は、右請負契約は訴外親和電気又は訴外田口一男が訴外古河電工と締結したものであり、同契約に基づく請負代金収入は訴外親和電気又は訴外田口一男に帰属するものであると主張し、訴外親和電気が前記訴外古河電工との請負取引による代金収入を自己の所得に計上して所轄の杉並税務署長に申告していたことは後記認定のとおりであり、また訴外田口一男が同じく右代金収入の一部を自己の所得として所轄の青梅税務署長に申告納税したことがあることは証人田口一男の証言により認められるけれども、訴外親和電気の右申告は原告に前記請負代金収入があつたことを隠ぺいするための仮装工作であることは後記認定のとおりであるし、また訴外田口一男の右申告は、証人田口一男の証言によると、同訴外人が原告会社の代表取締役をしている関係上会社名義で申告すべき所得をあたかも自己個人のそれであるかのように虚偽の申告をしたものであつて、しかも原告の前記請負代金収入中、昭和三二年度分の一部につきなされたにすぎないことが認められるし、なお同証言によると、原告と訴外古河電工との前記請負契約が、訴外田口一男と同訴会社との契約に切替えられたことや、同訴外人が原告の前記請負代金収入を実質的にも自己の所得として取得したことはないことが明らかであるから原告の前記主張は採用できないのであり、他に前記認定を左右する証拠はない。

三、神田税務署長のした更正処分中、昭和三二年ないし三四年度分に関する更正処分において、同署長は訴外古河電工横浜電線製造所発注にかかる電線端末加工による請負代金収入が訴外親和電気に属し、右収入に関する従業員の賃料等工賃、社会保険料、福利厚生費等の経費が同訴外会社において支出すべきものとし、これに基づいて、さきに原告が右経費を同訴外会社に代つて立替払したとして原告の所得計算上損金に計上していたのを、本来原告の立替金債権としてその所得に加算されるものとして否認していたことは当事者間に争いがなく、これと、成立に争いのない甲第三一号証、前掲乙第六、第八、九号証、証人金子力の証言により真正に成立したと認められる同第一〇号証、同証言により金子力が作成したと認められる同第一一号証、同証言、弁論の全趣旨によると、原告には訴外古河電工との前記請負取引による請負代金収入(売上金)に関する経費(売上原価)として次の支出金を生じたこと、すなわち、

(昭和三二年度)

工賃 三〇六、五一八円

福利厚生費 四二、六六六円

(昭和三三年度)

工賃 二、一八四、四四五円

社会保険料 一一二、二六三円

福利厚生費 八二、七六〇円

賃借料(前第二項記載のように訴外古河電工より家屋及び付属設備を賃借していたことによるもの) 六六一、六〇〇円

(昭和三四年度)

工賃 二、七一六、八七五円

社会保険料 一四八、三二二円

福利厚生費 九五、六一〇円

賃借料(前年度と同様のもの) 七二四、九五〇円

(昭和三五年度)

工賃 二、六二七、〇二七円

賃借料(前年度と同様のもの) 六一七、四七〇円

の支出金を生じたこと、右各支出金中賃借料をのぞくその余の支出金について、原告は昭和三二年ないし三四年度分については、訴外古河電工との前記請負契約の当事者が自己でなく訴外親和電気(昭和三一年一一月一二日以降昭和三五年八月三一日までの商号は親和通信機株式会社)であるとし、同訴外会社に対する立替金勘定として自己の損金に計上申告していたところ、前記のように神田税務署長によりこれがいずれも立替金債権であるからと右損金算入を否認されていたものであり、昭和三五年度分については立替金債権として自己の所得に計上していたものであつて、被告は本件更正処分において賃借料を含め前記支出金をすべて原告の損金として認容したこと、昭和三二年度における前記認定の請負代金収入及び預金利息小計一、八八〇、〇八一円より同年度における右支出金小計三四九、一八四円を差引いた増額所得額一、五三〇、八九七円に対する事業税は一八三、七一〇円となり、被告においてこれを昭和三三年度の損金として認容したこと、昭和三三年度における前記認定の請負代金収入及び預金利息小計七、一〇五、五四八円より同年度における右支出金及び事業税小計三、二二四、七七八円を差引いた増額所得額三、八八〇、七七〇円に対する事業税は、四五五、六九〇円となるので、被告においてこれを昭和三四年度の損金として認容したこと、昭和三四年度における前記認定の請負代金収入及び預金利息小計六、五五八、九九一円より同年度における右支出金及び事業税小計四、一四一、四四七円を差引いた増額所得額二、四一七、五四四円に対する事業税は二九〇、一〇〇円となり、被告においてこれを昭和三五年度の損金として認容したこと、原告は昭和三二年ないし三五年度における前記認定の増額所得額を隠ぺいして簿外資産となし、昭和三五年五月行われた神田税務署の所得調査に際し、同署より昭和三二年ないし三四年度における訴外古河電工との前記請負取引による請負代金収入の計上洩を指摘されるや、同訴外会社と請負契約を結んだのは訴外親和電気であつて自己ではなく、前記支出金を訴外親和電気に代つて立替支払つたとして自己の損金に計上していた分につき、これが立替金債権の計上洩であるにすぎないと主張し、同署々長も右主張を容れて、右各年度に関する更正処分において原告のなした右損金算入を否認したにとどまつたこと、更に原告は昭和三一年一二月二五日解散した、訴外田口一男が代表取締役になつていた訴外親和電気を、昭和三五年五月三一日、昭和三二年四月三〇日付で会社継続した旨の登記をして復活させたうえ、訴外親和電気をして原告が訴外古河電工との請負取引により取得した前記請負代金収入の一部につきこれが訴外親和電気が訴外古河電工との請負取引により取得した請負代金収入である旨計上した決算書を作成させ、昭和三五年六月一三日所轄の杉並税務署長に対し修正申告させ、もつて原告の昭和三二年ないし三四年度における前記増額所得金額を訴外親和電気の所得である旨仮装したこと、以上の事実が認められ、この認定を左右する証拠はなにもない。

四、そうすると、原告の昭和三二年ないし三五年度における課税標準となる所得金額は、被告主張のように、

昭和三二年度 五、六三一、九一七円

昭和三三年度 五、九四六、八一一円

昭和三四年度 六、七三二、五七一円

昭和三五年度 七、九七九、五五八円

であるというべく、右各課税標準に対する法人税額が

昭和三二年度 二、二〇二、七六〇円

昭和三三年度 二、一五九、七八〇円

昭和三四年度 二、四五八、三五〇円

昭和三五年度 七、九七九、五五八円

であるというべく、右各課税標準に対する法人税額が

昭和三二年度 二、二〇二、七六〇円

昭和三三年度 二、一五九、七八〇円

昭和三四年度 二、四五八、三五〇円

昭和三五年度 二、九三二、二一〇円

となることは、右各年度に関する法人税法(昭和三二年度分については昭和三三年三月三一日法律第四〇号による改正前の、その余の年度分については昭和三七年法律第四五号による改正前の法人税法(一七条))の規定上明白である。

そして、原告が神田税務署長に対しなした、昭和三二年ないし三五年度における所得金額及び法人税額の確定申告書の提出がいずれも原告の課税標準、欠損金額(昭和三三年度分につき)、法人税額の基礎となるべき事実を隠ぺいないし仮装し、その隠ぺいないし仮装したところに基づいてなされたものであることは前項認定の事実により明白であるから、右各年度に関する前記各改正前の法人税法の規定(四三条の二)上、原告に対しては、右各年度における前記真実の所得金額に対する各法人税額より、神田税務署長の更正による前記各所得金額に対する各確定済法人税額、すなわち、

昭和三二年度 一、五九〇、四〇〇円

昭和三三年度 六八五、〇八〇円

昭和三四年度 一、五三九、七〇〇円

昭和三五年度 一、九四九、〇七〇円

をそれぞれ差引いた金額の各一〇〇分の五〇の割合を乗じて得た各金額、すなわち、

昭和三二年度 三〇六、〇〇〇円

昭和三三年度 七三七、〇〇〇円

昭和三四年度 四五九、〇〇〇円

昭和三五年度 四九一、五〇〇円

を重加算税として賦課すべきであるといわねばならない。

五、以上の次第であるから、被告のなした本件各更正決定処分及び重加算税の賦課決定処分には何ら違法はないというべきであり、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森文治 裁判官 柳沢干昭 裁判官 門田多喜子)

古河電気工業株式会社

横浜電線製造所からの入金明細書

〈省略〉

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